承久記 - オンライン読書
承久記 - 15 阿曾沼の渡豆戸の事
同じき六日の暁、大豆戸に向ひたる板東勢の内に、武蔵の国の住人阿曾沼の小次郎近綱と言ふ者あり。河に打臨んで申しけるは、「仙道の軍は明日と合図をさしたれども、早やはじまりて候ひけり。死したる馬流れたり。仙道の手の後陣に控へん事こそ口惜しけれ」と、言ひも敢へず打ち入る。二陣に武蔵の太郎時氏打入り給ふ。これを見て、十万八百余騎一度に打ちわたしたしけり。時氏三十余騎にて、敵の館の内へ喚いて駈け入りけり。兵ども一人も見えず、雑人どもぞ十四五人ぞ逃げ散りける。
承久記 - 16 官軍敗北の事